『記憶の棘』

久々かなり深く感動した。ニコール・キッドマンって、ものすごく演技が上手いんじゃないかと思う。遅れて入った劇場で、舞台を向いたまま動揺し続ける長い演技には、こちらまで緊張してしまった。

物語は、夫を急病で亡くした妻が10年後にやっと夫を諦めて、求婚し続ける男性と結婚の決意をした時、自分は亡くなった夫ショーンだという10才の少年が現れた事から核心に進む。

そんなハズはないけれど、でも2人だけしか知らない事を10才のショーンは語るし、尋常ではない熱い想いをぶつけてくる。悪い冗談と思っていた未亡人アナだが、少年の示す愛に「夫ではないか?」という思いを拭えなくなる。だんだん苦しみを深くしながらも、少年を身近におき愛し始める。

このストーリーの一番の見せ所は、生前、夫ショーンはアナを全く愛していなかったということ。それを知った少年は、こんなにもアナを愛している自分はショーンではないとアナから去っていく。

ショーンの急死の後、出産直後の赤ちゃんの映像を見せるが、あの時からアナは自分の中に自分のショーンを作り上げてきたのではないかと思う。10年後、結婚を決意するものの、どうしてもショーンと別れられないアナは10年後にショーンの身代わりを作ってしまう。だが、本当のショーンを知らないアナは、アナの望むショーンしか作れない。真実を知った少年は、アナの呪縛から放たれただの少年に戻る。

真実を知らないアナは苦しみ続け、結婚式の日にも海辺で泣き濡れてしまう。

裏切られていたとも知らず、夫の死を受け入れきっていないアナ。ショーンの裏切りが観客にわかるのは映画終盤だけれど、急死の場面以外、2人の生活や思い出の場面が皆無なのは、そのためだったかと、静かにひかれていた伏線にも納得。

(新宿 武蔵野館)

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