本 『ベルリンの秋』(上)(下)

『プラハの春』に続き、夢中で読んだ。うねりを上げて大きく揺れるチェコの政局に翻弄される『プラハの春』の大使館員堀江。対し、『ベルリンの秋』は、何も起きない鉛のような東独を相手に、シルビアへの想いを貫こうとするもう若くない外交官堀江。『ベルリンの秋』では経験を積んだ外交官として着実な働きぶりも読みとれ、著者のその世界での体験をかいま見た気がした。一般人には伺いしれない外務省の暗黙のルールやノンキャリアの悲哀なども少し覗けて、ちょっとリアルな感じであった。

1969年からベルリンの壁崩壊(1989年)までの約20年間を、東ヨーロッパ、日本、アフリカを舞台に話は進む。ソ連の暗躍、そのソ連に取り込まれ身動きならない東独、その東独の中核にいて体制を変えようと企てる人物。張り巡らされた伏線の中、外交官という特殊な立場の彼の、人を求める行動が、社会主義崩壊のプロセスと重なり、読み応え充分。考え深いのは、がんじがらめの体制の象徴ベルリンの壁を壊したのは、政治家でも、レジスタンスでもなく、解放を夢見た市井の人々の群衆だった。時間を追って克明に描かれた崩壊までプロセスが当時の空気を感じさせ、時に小説という事を忘れてしまったり……。

『プラハの春』と『ベルリンの秋』に共通して楽しめたのが音楽の話。紹介された全ての曲を聴いてみたいと思わせるのは、はやりこの小説の良さが関係しているのだろう。

(春江 一也著)

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