結婚を控えた工藤泉は、婚約者に「ぼくといる時も彼の事を思い出すのか」と聞かれるような恋愛をかつてした。その苦しい恋を、きれい事にせず、淡々と率直に回想する。叶わなかった恋を美しく思い出すのではなく、その時々の思いをそのまま並べた、そんな話。
両親のドイツ赴任で一人暮らしをしている泉に、高校時代の恩師葉山先生から電話がかかる。もう会うことはないと思っていた葉山とひと夏、クラブ活動で接する機会を得て、押さえがたい想いを深める。割ときっぱり生きている泉だけれど、葉山に関してはどうしても気持ちを上手くコントロール出来ない。
現実は添えない関係にあり(あると思い)ながら、お互いの言葉を誰よりも深く理解できる者同士と自覚しあっている。身を投げ出したいと願う泉と、受け止められないと引くそぶりの葉山。深く分かり合いたいのに、先に進めない2人。
ドロドロとした家庭の事情を持つためか、それとも性格なのか、優柔不断に悩む葉山に魅力はないが、惹かれ合うとはそれさえも大きな吸引力になってしまうのだろう。誰にも解らない関係をその人とだけ築けるというわけだ。小野君とは終始解りやすい関係にあり、特別の何かを感じ合う事が出来なかった。万事そつのない小野君の豹変ぶりや、子どものような振る舞いの葉山が、ただそのように書かれているのが良かったかもしれない。
(島本 理生著)
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